大判例

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仙台高等裁判所 平成10年(行コ)6号 判決 1999年3月30日

福島県白河市字南堀切二六番地六

控訴人

有限会社白河共立酒販

右代表者代表取締役

古市滝之助

右訴訟代理人弁護士

井浦謙二

福島県白河市中田五番地一

被控訴人

白河税務署長 鈴木剛

右指定代理人

大塚隆治

山中周造

佐藤恒夫

佐藤正春

加賀谷清孝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して平成四年七月六日付けでした酒類販売業免許申請拒否処分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

一  当事者の主張は、次のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

二  原判決の付加訂正

1  原判決一二頁一行日の「本件免許拒否処分を」を「本件免許拒否処分が」に、二二頁九行目の「三・六」を「三・四」に、一〇行目の「一兆九六〇九億六一〇〇万円」を「一兆九六一〇億円」に、別表四を本判決別表に改める。

2  原判決三七頁九行目の次に行を改め、「もっとも、最高裁判所は、平成一〇年七月三日(最高裁判所平成六年(行ツ)第一一一号)及び同月一六日(最高裁判所平成九年(行ツ)第九七号)、酒税法九条一項、一〇条一一号の規定が憲法二二条一項に違反するものと言うことはできない旨の判決を言い渡したが、これは、以上述べたところから明らかなように、不当な判決である。」を加える。

三  当審における控訴人の主張

1  免許取扱要領の違憲、違法性

(一) 酒税法一〇条一一号の規定は、同条一〇号の規定と比べ、制度目的達成のための手段として間接的なものであることは否定し難く、酒類販売業の免許制が職業選択の自由に対する重大な制約であることにかんがみると、同条一一号の規定を拡大的に適用することは許されるべきではない。

ところで、本件において適用された免許取扱要領(以下「新免許取扱要領」という。)は、それ以前の酒類販売業免許取扱要領(昭和三八年一月一四日付間酒二-二「酒類の販売業免許等の取扱について」国税庁長官通達の別冊。以下「旧免許取扱要領」という。)を改訂したものであるから、この旧免許取扱要領に比べて大幅に免許枠を削減するようなものであれば、酒税法一〇条一一号の拡大適用になる。

(二) 旧免許取扱要領は、小売基準数量要件を定めていたが、これは、需給のバランスを直接的に示すものであるのみならず、酒類消費量の増減を反映するものとして重要な要件である。しかるに、新免許取扱要領では、小売基準数量要件が削除され、人口基準に一本化された。

ところで、白河市においては、本件免許拒否処分当時である平成四年における酒類消費量は四三九九キロリツトルであるから、既存免許場数の六一で除すると、一場当たり約七二キロリツトルとなり、これは旧免許取扱要領におけるB地区の小売基準数量二四キロリツトルの三倍近い量となり、三倍近い免許枠増加の余地があったことになる。このような結果をもたらす小売基準数量要件を削除したことは、極めて不合理なものと言わざるを得ない。

(三) 旧免許取扱要領では、A地域は三〇〇世帯、B地域は二〇〇世帯、C地域は一五〇世帯が基準であった。ところが、新免許取扱要領では、A地域は一五〇〇人、B地域は一〇〇〇人、C地域は七五〇人を基準とした。これは、一世帯を五人として計算したことになるが、昭和六二年の全国平均は一世帯当たり三・〇七人、平成四年のそれは二・九一人であるのだから、新免許取扱要領は、旧免許取扱要領より免許枠を四〇パーセントも減らすことになる。

右を白河市について見ると、平成四年における同市の人口は四万五八五三人で、一万四四〇二世帯であったから、旧免許取扱要領によれば免許場は七二場となるが、新免許取扱要領によるそれは四五場に減少する。

右のように、新免許取扱要領における人口基準は、極めて不合理なものである。

(四) 以上のように、新免許取扱要領は、旧免許取扱要領に比べて大幅に免許枠を削減するようなものであるから、酒税法一〇条一一号の拡大適用になると言わざるを得ず、違法であるばかりではなく、違憲であることが明らかである。

2  酒税法一〇条一一号適用の違法性

政府は、平成一〇年三月三一日、酒税法一〇条一一号の需給調整要件の距離基準を平成一二年九月一日をもって、人口基準を平成一五年九月一日をもって廃止する旨閣議決定した。したがって、これらの要件は空文化したものと解さざるを得ないから、この規定を適用した本件免許拒否処分は違法である。

第三当裁判所の判断

一  控訴人は、まず、酒類販売業の免許制を定めた酒税法九条一項及びその要件を定めた同法一〇条一一号の規定が憲法二二条一項に違反することを理由に、本件免許拒否処分の取消を求めるところ、これら各規定が憲法二二条一項に違反するものとはいえないことは、最高裁判所の判例(最高裁判所平成九年(行ツ)第九七号、平成一〇年七月一六日第一小法廷判決・判例時報一六五二号五二頁。なお、この判決は、本件の控訴人代表者が代表取締役を務める共立酒販株式会社が提起した本件類似の訴えに対するものである。)とするところであり、当裁判所の見解も、これと異なるものではない。したがって、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

二  控訴人の主張1について

1  証拠(乙四、五及び弁論の全趣旨)によれば、昭和三八年に定められた旧免許取扱要領は酒税法一〇条一一号所定の事由に該当するかどうかを認定する基準として、小売販売地域内の酒類の総販売数量と総世帯数を基に計算した数値が小売基準数量又は基準世帯数のいずれかを上回る場合に限り免許を付与しうることとし、ただし書において、右の要件に合致しても免許を与えない場合があることを規定していたこと、新免許取扱要領は、旧免許取扱要領制定以降の経済社会の変化に即応し、酒類販売免許の必要な場合は免許を付与することができるよう措置すると同時に、制度運営の透明性及び公平性を一層確保することを目的として改訂されたものであり、酒税法一〇条一一号所定の事由に該当するかどうかを認定する基準として、小売販売地域ごとに地域の規模や人口密度による三段階の格付をし、当該小売販売地域の人口を右段階ごとに分かれた基準人口(A地域は一五〇〇人、B地域は一〇〇〇人、C地域は七五〇人)を基にして新規に付与すべき一般酒類小売業の酒類免許の枠を機械的に確定することを原則とし、旧免許取扱要領におけるただし書を廃したこと、以上の事実を認めることができる。

そして、昭和六二年までの酒類の消費数量、消費金額、昭和六二年における小売販売地域の人口当たりの販売場免許付与の割合、各地域別売上金額とこれを維持するために必要な人口については、原判決(三八頁二行目から三九頁一一行目まで。ただし、三八頁一〇行目の「ほとんど」を「大きな」に三九頁一〇行目の「除すると」を「除して」に改める。)の説示のとおりであり、これらの数値は、新免許取扱要領において定められた基準人口に適合するものであることが認められる。

2  右のように、人口基準に基づいて需給要件を判断することとした新免許取扱要領が、本件規制の目的を達成するための方法として合理性を有しているものであることは、原判決(四〇頁六行目から四一頁四行目まで)の説示するとおりであり、前記最高裁判所の判決の趣旨にもそうところである。

3  控訴人は、新免許取扱要領では旧免許取扱要領において採られていた小売基準数量要件を廃止したことを不合理であると主張する。

しかしながら、前記のとおり、旧免許取扱要領においては、小売基準数量又は基準世帯数のいずれかが検討対象となっていたのである。そうすると、右要領の下では控訴人が需給バランスを直接的に示す重要な要件であるという小売基準数量との比較に基づいて免許付与の可否が検討される場合もあれば、そうではない基準世帯数との比較に基づいてこれが検討される場合もあったのを、新免許取扱要領においては検討の対象を明確な人口基準に一本化することにより、基準の透明性、公平性を一層確保しようとしたものであり、酒類の需給の均衡を図るための基準として合理的なものということができるから、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

4  また、控訴人は、新免許取扱要領における人口基準が不合理であると主張するが、前記のとおり、新免許取扱要領では、人口密度による三段階の格付をし、当該小売販売地域の人口を右段階ごとに分かれた基準人口を定めたが、これは昭和六二年度における新規免許付与例における一販売場当たりの平均人口に適合するものであるところ、右は一般酒類小売業者の経営の実態に合わせて算出された基準人口によって酒類の需給の均衡を図ることとしたものであり、控訴人が主張するようなそれまでの世帯数を基準にして人口を算出したものではなく、かえって、右3で見たように、「二つの基準のどちらか」というものから、より一層明確な人口基準に一本化したという側面にも意義があるものであるから、不合理であるとはいえない。

三  控訴人の主張2について

本件免許拒否処分の適法性は、その処分当時の法令等とこれを具体化した運用基準を前提として判断されるべきものであり、これと異なる前提に基づいた控訴人の主張は採用することはできないし、その主張のような事実があったことをもって、直ちに右要件が実質的意義を失うに至ったものとすることはできない。

四  本件免許拒否処分の違法性

本件免許拒否処分の経緯と本制度運用の違法性の主張についての認定判断は、原判決(四一頁六行目から四二頁五行目まで、五八頁一二行目から六〇頁七行目まで)の説示のとおりであるから、これを引用する。

以上によれば、酒類販売業の免許制を定めた酒税法九条一項及びその要件を定めた同法一〇条一一号の規定は憲法二二条一項に違反するものではなく、さらに新免許取扱要領自体も適法なものであり、これに基づいてされた本件免許拒否処分に違法はない。

五  よって、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がない。

よって、主文のとおり判決する(平成一〇年一二月一八日・当審口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 武藤冬士己 裁判官 畑中英明 裁判官 若林辰繁)

別紙 <省略>

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